この涙を拭うのは、貴方でイイ。-大人の恋の罠-
暫くしてタクシーがピタリと動きを止めたのは、六本木にある高級マンション。
当たり前のように祐くんが代金を支払うと、ボーッとしていた私の手を握った。
その力で外へと出れば、背後でバタンと無機質な音を立て発車して行くタクシー。
煌々と輝くネオンと街にはびこる喧騒音が、都会の密集度と凄然さを知らしめる…。
「…なに考えてた?」
するとそびえ立つマンションの前で立ち止まったまま、冷たい声色を響かせた祐くん。
「・・・ごめん、ね」
どうしてだろう。ソレを紡ぎ出した途端、頬を生温かいモノがツーと伝っていく。
「のん…、行けよ」
「っ・・・」
それまで彼の大きな手でキュッと包まれていた感触が、ふっと離れた瞬間。
心がどうしようもないほど、今まで感じた事のないほど、ギューッと締め上げられる。