この涙を拭うのは、貴方でイイ。-大人の恋の罠-
必死だから、奔走。
シンと静まり返る車内の中、バッグから携帯電話を取り出してメモリを出せば。
すぐに出てくる、その人の名前で止めて、発信ボタンをグッと強くプッシュした。
無機質なコール音が4回ほど続いたのち、ガヤガヤとうるさい通話へと切り替わる。
「――何か用?」
「…あ、あの、私ですけど…」
「分かってるよ。んなの」
早く切りたいのだろう。彼がイライラしているのが伝わって来て、ズキンと心が痛み始めた。
「っ…あ、尭くん、ど、どうして冷たいの?」
「冷たい?いつもと…」
「っ、違うよ。ぜんぜん違う…!」
ハッと鼻で笑った尭くんの言葉が虚しくて、はじめて強く押し切っていた私。