この涙を拭うのは、貴方でイイ。-大人の恋の罠-


この時期にピッタリの元気な向日葵イエロー色に、シフォン素材が女性らしいフェミニンラインの新作で。


冗談ではなく、昼休みにスケッチに描いたデザインが取り上げられた物なのだ…。



「この前の視察で、中嶋くんが言ってたの」

本部からの出向で銀座店の店長を務める利奈さんは、同期なアノ男と顔見知り。


“珍しいわ”なんてクスクス笑うから、ゾゾッと悪寒が走ったのは言うまでもない。



あり得ない――私はヤツから“ガキの落書き”だと言われましたが…?




平日のお昼すぎという時間も相俟って、閑古鳥の鳴く状況は相変わらずだった。


無常にもお店の前をスルーして行くお客さんを前に、いい加減にテンション維持も辛いけど。



何よりも大切なのは笑顔だからと、9センチのピンヒールで立ち続けていた時――



「あー、コレ!良くない?」


「え…!は、派手だよ」


明るい黄色の映えるトルソー前で、ようやくお客様が立ち止まってくれて。



「夏だし、たまには良いと思うわよ?」


「え…、で、でも…」


ガッツリ掴んでしまいたいトコロだけど、それでは引かれてしまうのが関の山だ。



「こんにちは、いらっしゃいませ」


慎重に向かってみれば、柚ちゃんクラスの美人な女性2人の表情を捉えた。


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