この涙を拭うのは、貴方でイイ。-大人の恋の罠-
この声に惑わされたらダメ…、祐くんには相手がいるのに――
「あ、あのね…、ら、蘭さんっていう女性、知らない…?」
明らかに声を震わせながら、本題を尋ねたものの。
次に襲うのは、答えを聞きたく無いという矛盾したドキドキ感なんて…。
「はぁ?蘭ちゃん?
知ってるも何も――すぐ近くにいるけど、どうして?」
突拍子もない問いだからか、祐くんにしては珍しく疑問符で返された。
「あ…、そ、そっか!分かった、ありがと!」
「あ、おい!のん…っ」
勝手な自己完結をした私は、捲し立てたあと終話ボタンを押して通話を終えると。
そのまま電源もオフにして、無能となった携帯電話をバッグに押し込んだ…。
「・・・っ」
幼馴染みとか言っても、祐くんには蘭さんという存在が居たコトすら知らなくて。
アノ日の事なんて彼にとっては意味ゼロ…、そうハッキリ分かった。
だけども。今までは歴代の彼女と遭遇しても、何にも感じなかったのに。
どうして今日は、こんなにも息苦しいの…?