この涙を拭うのは、貴方でイイ。-大人の恋の罠-
まったく離してくれる素振りもない彼に、意地を見せて小走りで隣を歩けば。
どういう訳かスピードダウンをしてくれて、腕を掴まれた夜のオフィス街を歩く。
少しラフなジャケットスタイルにメガネが、やたらとサマになっている尭くん。
「やっぱ柚さんと似てない」
「うるさ…いたっ!」
そんなコト分かりきっているのに、敢えて口にするあたりは鬼軍曹な彼らしい。
オマケに反抗したからって、手首を掴んでいる力を強めた性悪ぶりですけども。
どうしてくれようか、この傍若無人の勝手すぎる男――
「可愛くねぇコト言ってると、男に逃げられるぞ」
「…えーえー、フラれましたよ。
なんぜ尭くんみたいにモテるどころか、3番目の女ですからね…!」
それでも日中のように、諦めて大人しくしているのは私じゃない。