この涙を拭うのは、貴方でイイ。-大人の恋の罠-
昔からバカにされるばかりで、言うなれば嫌いな部類に入る人だった。
もしかしなくとも、尭くんこそアホな私を忌み嫌っているようだったし。
不意打ちキスの意味なんて、恐ろしいから聞けない…。
「なに固まってんだよ」
「…へ?いや…、うーん…」
いつもと違って、しおらしかったのだろうか。
覗きこむような素振りの彼に、なんと答えて良いか分からず動揺すれば。
「アホ」
「あ、アホって言う方が…」
ドキドキなんてする余裕もなく、無言の威圧感に押されたように身体が動かない。
すっかり固まった表情筋をムリヤリ動かせば、ますます引きつるだけの顔。
「――行くぞ」
そんな私に微笑みかけるどころか、嫌味なくらい淡々とした口調をして背を向けた尭くん。