この涙を拭うのは、貴方でイイ。-大人の恋の罠-
カクテルグラスをコトンと音を立てて置き、その声がした方へ顔を向ければ。
薄暗くムーディな間接照明の中で、メガネの奥の茶色い瞳を捕らえてしまう。
「オマエは笑顔が取り柄だろ?そのまま笑ってろ」
突然のアドバイスに激しく動揺したのは、紛れもない事実だ。
「…あ、尭くん、変だよ」
上手い言葉が見つからず、その妖しい瞳をフイと避けてしまったのだから。
「――なんで?」
「コッチが聞いたのに…」
ソレでも終わらないお尋ねに、今さら俯いた顔を上げられるワケもなく。
震えそうな手を伸ばし、そっとカクテルグラスへと落ち着かせて口にすれば。
「なら、まず顔上げろ」
「あき、く…」
「――望未」
今度はスッと左方から伸びて来た大きな手が、そっと私の手首を捉えて急かしてきた。
どうしてなのか、コチラだってハッキリ教えて欲しい。
珍しく名前を呼ばれた理由を探るなんて、やっぱりオカシイよね…?