この涙を拭うのは、貴方でイイ。-大人の恋の罠-
カラン、カラン…と大きな氷同士がぶつかって、グラスから小気味良い音が立つ。
それを見届けていると、不意にメガネの奥の茶色い瞳がコチラへ向いた瞬間。
「――虎視淡々、とは出来ないようだから」
「…っ」
その一言を発してまた視線を外し、一気にグラスの琥珀色の液体を煽る彼にドキリとする。
「あ、尭くん…」
あえて気づかないフリをしようとも、意味の分かってしまうフレーズだから。
どう差し引きして、どう勘違いだと思おうともムリ。
この沈黙に耐え切れず、彼のスーツのジャケットに引いて突破口を見い出そうとすれば。
「今は言うな」
「・・・ズルい」
尭くんの請うような一言を聞いた途端、私は何も言えずにスルリと手を離してしまう。
「ハハ…、そうだな」
カラン、カラン、とグラスを傾けては琥珀色を薄める氷をぶつけて鳴らす彼。
その様子が哀愁に満ちているから、とても口が開けなくなった。
だいたい私が“ズルい”なんて、よく言えたものだね――