この涙を拭うのは、貴方でイイ。-大人の恋の罠-
「ハハ、やっぱアホだ」
いつもなら粗相を仕出かせば、ギロリと眼鏡を通して眼光鋭く睨まれるのに。
「…怒んないの?」
どこまでも淡々としつつ一笑した彼が珍しくて、思わず目を見張ったけど。
「アホには慣れてる」
さっきまで困り果てる空気で惑わせた男の言うセリフだろうか…?
「ハイハイ、アホへの耐性つけてすみません」
そんな態度にも口を尖らせて言い返してしまう、私の方こそ可愛げゼロだ。
「そういう意味じゃない」
そう諦めていれば、座席シートへ置いていた左手に軽い重みを感じた。
「な…っ」
ビクリと驚く間もなく、キュッと絡め取られた指先を妖しくなぞられるから。
「あ、尭くん…!」
「ウルサイ」
慌てて左方に座る尭くんを見れば、その端正な横顔しか捉えられない。
恋人繋ぎのように骨ばった指を絡められて、私はどうするべき…?