この涙を拭うのは、貴方でイイ。-大人の恋の罠-
…などと、この場の誰よりも遅い回転速度で思案に明け暮れていれば。
「ハァー…、周りクドイ」
いつも以上にワザとらしい溜め息を吐いて、その場の雰囲気を悪化させる男がひとり。
ちょっとアナタ。少しくらい空気を読みませんか…?
「そもそも、祐史が手ぇつけといて野放しにするから悪いんだよ。
大体この奔放なアホに、普通の女と同じ攻略法が通じると思ったワケ?」
「・・・っ」
またもや嘲笑で酷評して下さった挙句、祐くんに対しても的を外した意見で睨むとは。
その突飛な発言のせいで、思わず顔を上げてしまった単純すぎる私。
でもね?こんなトコロまで性悪ぶりを発揮しなくて良いでしょう…――
「なに――アホ面晒して」
ようやく目が合ったと思えば、メガネの奥は呆れた眼差しをしていた。
「な…、あ、尭くん!
もういい加減に、――ふ…っ!?」
いい加減に失礼すぎだ!と、小さな堪忍袋の緒が切れかけた瞬間。
左方からいきなり後頭部を引き寄せられ、プッツンしかけの口を封じられてしまう。
「んー…!」
ソレはさっきと同じ柔らかさで、触れた先からほのかなお酒の香りがした…。