昼下がりの当番表
そう。睦月は数少ない図書室の利用者なのだ。
何故私に隠すつもりがなかったのか、それとも知らず知らず地雷を踏んでいたのか。
とにかく、悲しくも接触ポイントが多い私の前で彼はまるっとそのまま本性を出していてくれる。

「それでいいんだよ。ばか千歳の癖に俺に勝てるわけがないんだから。」

私の心中なんて知る由もなく、睦月はそれはそれは楽しそうに天使のような微笑みを浮かべた。
もっとも、彼に羽が生えていたとしたら悪魔もびっくりな大魔王みたいな極悪色の羽だろうけど。

「…何か今、失礼なことかんがえてただろ。」
「や、やだなあ!睦月君!」

まぁ、いいけど。
呟いて鞄に本をしまう睦月。なんとなくそのまま顔を眺めた。
…黙っていたら、芸能人顔負けの美少年なのに。源氏物語の光源氏だって出来そうなのに。
なんてもったいないんだろう。

ふ、と睦月が顔を上げる。
ひばりの視線と、一瞬交わる視線。

ふわり、唐突に何の邪気もないような柔らかさで笑う姿に、ひばりの心臓が大きい音を立てた気がした。

なんだかんだ性格に難があるとわかってはいてもそれを覆すような表情を取れるところがずるい。そうとうな役者になれそうだ。
(性悪な光源氏…闇源氏の君なんていいかもしれない。)
目をそらせずにいる私の目の前でみるみる表情に黒いものが混じりだす。
水に墨汁を垂らしたような、そんな素早さで。

「お前なんかに見つめられても嬉しくないよ。」
「な!」

私だって見たくない!そう言い返す前に、くす、と黒い笑みを残して睦月は颯爽と去っていった。
怒りを通り越して唖然呆然と見送ってしまってからふいに脱力感に襲われた。
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