⁂ダイヤモンド⁂
捨てた心
「未来さん、ご指名です。よろしくお願いします。」
「うん」
店に入るなり、待ち構えていた黒服はあたしにそう笑顔で近づいてきた。
その黒服の声と共に、待機場所の鏡を見つめ、ため息をついた。
ここで学んだこと。
“笑顔”
男なんてものは、みんな笑顔を見せれば飛びつく。
心から笑ってなくても、あたしの心の中なんて誰一人見破れない。
色々な人間が集まるこの店で、あたしが簡単に作り上げ、手に入れたものは、“未来”という人間だった。
「行きましょう」
広く長いフィールドを黒服の後ろに着いて高いヒールをコツコツ鳴らしながら歩く。
もうあの時みたいにこのヒールが似合わない女の子ではない。
そう、そしてあたしはこれから買われる。
男たちはお金と引きかえに、あたしとの時間を……
あたしはお金とひきかえに男たちに幸せなひとときを与える。
そんな、悲しい空間で、あたしは今日も笑顔で席に着く。
だけど……
お金が欲しいわけじゃないあたしは、一体この空間で何を求めているののだろうか。
5年間
考えたこともなく、分るはずもなく、ひたすらこの場所にいた……。
そしてきっとこれからも、この場所に居続けるに違いない。