⁂ダイヤモンド⁂
『未来の、その目だ……』
その言葉で、この5年間描き続けてきた自分の中での秋山さん像が、いっきに崩れていく。
何かを悟られてしまっているのか……。
見透かされているのか……。
凄く脅えて、気づいたらお酒を作ることさえも忘れていた。
柚木から未来という女に生まれ変わった瞬間に、自分なりに“柚木”という人間は抹消されたと、そう思いながらあの日から働いてきたつもりだった。
「今日は未来の5年目のお祝いだから、1番高い酒持ってきてくれ」
その言葉に我に返り、あたしは秋山さんと、いつからいたのか分からない黒服のやり取りを見つめていた。
「未来、5年目おめでとうだな」そう、これは毎年恒例のこと。
優しく、あたしを愛らしい目で見つめながら微笑む秋山さん。
秋山さんと出会ってから、1年ごとにいつも同じように1番高いお酒を入れてくれる。
なのに、5年目の今日は、これまでみたいに笑顔で『ありがとう』という言葉すら出てこなかった。
そんなあたしを、秋山さんは不思議がらずに自分で空になったグラスにウイスキーを注いだ。
「わかる人にはわかるものなんだよ」そう一言だけつぶやき、マドラーでお酒をかき混ぜていく。
無駄に長くかき混ぜている秋山さんのグラスを瞬きせずに見ていた。
「よし!!5年目の節目ということで、今日は飲むぞ~!!」
大声を張り上げた秋山さんの元にタイミングよく黒服が高級なお酒を持ってきて、にこにこしている秋山さんの目の前で、蓋が掛け声と共に豪快に開けられた。