⁂ダイヤモンド⁂
少し前のあたしは、この暗闇の路地裏から輝かしい世界を眺めていた。
2、3歩踏み出せば、あたしも光輝く場所へと行くことができたはずなのに、それを拒否していたんだ。
あの時のように、同じ場所に腰を下ろすと、通りすがる人たちを眺めた。
「キャーーーッ!!」
「行くぞ!!」
過去の自分に浸る暇すら与えられず、背後から腕をつかまれた。
「なに!!痛い!ってば……」 振り向くと、そこには険しい顔をしている店長がいた。
振り払おうと試みたりもしたが、腕を掴む力はとても強くとてもじゃないけど振り払うことなんて出来ない。
「おまっ、どうしてくれんだよ、店ごちゃごちゃだぞ!!」
「いや、あたしは悪くない!!もう嫌!!!」
「未来、戻ろう!!」
「嫌っていってんじゃん!!あたしはここで拾われたんだよ、もういいでしょ?そもそも、あたしとあんたは何も関係ないんだから!!」
「戻るんだ」
「もうさ……ほっといてくれる?」
その瞬間、店長があたしの腕をはなした。
“えっ……”
「じゃあ、俺もここにいるかな」
店長は、あたしの隣に腰を下ろしあぐらをかくと、タバコに火をつけた。
「勝手にいれば?ほんと変わってる人!!」
こういう時でさえ、どことなく冷静な店長にいら立ちを感じて、あたしは立ち上がった。
「逃げたって無駄だよ?俺はお前を拾ったんだ、だから責任もってお前を追うから」
自分が吐き出したタバコの煙を目で追いながら話す店長。
あたしも同じように煙を目で追った。
「未来?」
「なんだよ」
「人にはな、馬鹿にされるくらいが丁度いいんだよ」
しっかり聞いてないと聞こえないくらいの声で、そう呟いた。
「はっ?意味わかんないから」
そんなふうに強く言い返しながらも、その言葉が胸に響いていた。
「馬鹿にされてろ、馬鹿にされてりゃぁいいんだ」
吸っていたタバコを地面にこすりつけ、店長は立ち上がった。