⁂ダイヤモンド⁂
再び、あたしの腕を掴んだ店長の手をもう振り払うこともせず、拾われたあの時と同じように、裸足でまた夜の道を歩く。
「ねぇ……」
「んっ?」
その声に振り向くことなく、あたしの手を引いて歩きつづける。
「なんで怒らないの?」
「なにが?」
なぜ、店長はあたしに怒らないのであろう。
どんなお客さんでも『大切なお客様だ!!」といつも口うるさくキャストに言っているのに。
なのに、看板を背負っているナンバー1のあたしが、お客さんの暴言を吐き、おまけに頭から酒を浴びさせたという始末。
「別に……」
きっとその理由を店長があたしに言うことはないのだろうと自ら問いただすことを拒んだ。
「俺のそばにいる人間を失いたくないだけだよ」
店長の後ろ姿が寂しそうに見えて、あたしは足を止めた。
「どした?」
振り向いた店長の笑顔は、やっぱり寂しそうだった。
「なんでもない」
“人には馬鹿にされるくらいがちょうどいいんだよ”
“俺のそばにいる人を失いたくないだけだよ”
ふたつの言葉が、あたしの頭の中をかけめぐり、気づいたら飛び出した店の前にいた。
この日あたしは、“もう逃げない” そして……
店長に着いていくことを決め、決意し店の扉を自ら開けた。
振り返ると、店長はあたしに向かい優しそうな笑顔でうなずいた。