⁂ダイヤモンド⁂

「本日のラストソングを歌ってくれるのは、今日で5年目を迎える未来さんです!!」

そんな言葉があたしの耳に入ってきたかと思えばいっせいに拍手がわきあがる。思わずなんてことだと思いながら辺りを見渡してしまった。


そして何よりも驚いたのが、店長自らマイクを持ち言い放っていたことにびっくりし、あたしは硬直していた。


「未来さん、お願いします」

「えっ!?聞いてない……」

うちの店は、閉店前のラストソングは女の子によって歌われる。

いつもは決められた順番で回ってくるのだが、あたしが断固として拒否するため、黒服たちがマイクを持ってくることはなかった。

この店に入って一度も歌ったことなんてないのだ。


「よろしくお願いします」


硬直しているあたしの前にマイクを差し出したのは、店長。 深く頭を下げ、目も合わさずにあたしの前から去った。



“ほんと、なんなの!!”


ひきつった笑顔を振りまくあたしの心の中は、怒りでいっぱいだった。盛大な拍手のなか、イントロが流れはじめ、誰もがあたしを見つめていた。


「選曲もさせないで、なんの歌だよ……」


文句を言いながらも、ちゃっかり笑顔を作るとあたしは立ち上がり、フロアの真ん中へと向かった。


“えっ、この歌……”

耳に入ってきたのは、昔の思い出の曲。


“どうして……”


フロアの真ん中で店長の姿を捜すと、彼は遠くのほうから、あたしを優しい眼差しで見つめていた。


まるで、あたしのために作られたような悲しくて切ない曲。


目をつぶり深呼吸し、マイクを握りしめ、 曲の始まりとともに、あたしは画面に映る文字を見つめていた。

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