⁂ダイヤモンド⁂
なぜ、ここに彼女がいるのだろうか……
お風呂場から出て、濡れた髪をタオルで雑にふきながらソファーに寝ている姿を見ては肩を落とした。
1つしかないソファーは、2人用のソファーだ。
それが見事に今日は埋まっている。
むしろ、この部屋に誰かが訪問することすらないし、そのソファーはあたし以外に座られたこともないのだ。
なのに今はあたしが座る隙間もないほど占領されている。
冷たくなったフローリングに腰を下ろすと大きなため息が零れ、タバコを手に取り火をつけ大きく宙に吐いた。
「ひかるぅ……」
はっ??
静かな部屋に名前を呼ぶ声が聞こえてきて、ソファーへと視線を移せば、もうスースーと寝息が聞こえる。
忙しい子だ。
「ひかる……?」
『そう、あたしはホストに恋してんの!!』
「ホストの名前かよ……」
こんなに、酒に呑まれた理由は、ひかると言う男のせいなのか?
そんな事が一瞬頭に過ったが、どうでもいいやと肺にたまっていた煙を勢いよく吐き出した。
つーか、どうすんだろ……
静かな部屋に美波の寝息と時計の秒針の音だけが聞こえる。
いつもは、この秒針の音が嫌いで音楽をかけているのに、今日は美波がいるせいかオーディオの電源に手が伸びなかった。
気づいてしまったが、見渡すと全てが真っ白すぎるあたしの部屋は誰かがいるだけで暖かい気がする。
もう一度、体を反らしてソファーで寝ている美波の方に目をやると寝ているはずの美波の目からは涙が零れていた。
えっ……?
きっと、夢の中であろう。
それでもなぜか、少しだけあたしの心に痛みが走る。
「恋か……」
呟きながら灰皿にタバコを押しつけると、美波の方を振り向かずベッドの上に寝転んだ。