⁂ダイヤモンド⁂
「未来さん!!早くしてくださいよぉ!!」
「……はぁ」
美波の言葉に重い腰をあげながら、洗面所で髪のセットを始めた。
「はぁ……なんでだろ」
9時頃、美波によって叩き起こされ、午後1時から始まるオープン戦の球場に向かおうとしている。
「興味ないって言ったのに……」ぶつぶつ鏡に向かって独り言を言いながら、丁寧に髪を巻きあげて行くと、その後方で美波が誰かと携帯で会話をしているであろう声が聞こえた。
「もう少しです!未来さん、なんせ支度遅くて~」電話越しの相手が誰だか、一瞬で分かった。
きっと一緒に観にいくもう一人の人間、店長だろう。
「はぁ……」
あの日から、美波はうちに帰ってくることが多くなった。
出勤が重なる時はあたしが帰りに乗るタクシーに飛び乗ってくることが多い。
昨日も、それを想定してあたしは店が終わってから一人タクシーに乗らずに反対方向に歩き行きつけのバーに行こうとしたのに……
二日酔いとか言えば、今日の約束から逃れられるかと思ったら、それは簡単に美波によって阻止された。
そもそも、美波はなぜうちに帰ってくるのだろう……気がつけば、ここ1ヵ月一緒にいる。
それがおかしいことに、今さら気がつくあたしもどうかしてる。
「未来さん~まだですか?」
「ん、もう終わる」
鏡を覗きこまれながら、洗面所に置いてあるいくつかのスプレーを吹きかけワックスで整えるとバッグに持っていくものを詰め込んだ。