⁂ダイヤモンド⁂
「着たか」
相変わらず無愛想な男は、一つも表情を変えずにあたしを下から上までなめるように見た。
「そんなジロジロ見んなよ!」
「後は髪型と化粧だな」
部屋の中に戻され、雑にドアを閉めると、スーツのポケットから携帯を取り出し男は誰かに電話をかけ始めた。
「すぐな、宜しく……」
たった一言で終わらせた電話に、やっぱりこの男は好まないと心底思った。
そしてやっぱりあたしを見つめる眼は鋭くて、そのまま身体を突き抜いてしまいそうだった。
「なんだよ!」
「いや……」
きまずい空気が流れる中、静かな部屋にノックの音が響いた。
「失礼します」
「おう」
あたしは突然目の前に現れた女に、ソファーに座るように促されると、大きなバッグから取り出された沢山のメイク用品であっという間にメイクをされて、
髪型も今まで自分がしたことのない、雑誌で見るような盛り髪ヘアになって行った。
男はその横で、お客さんへの接客の仕方、店のシステムや決まり事を話し続けていた。
そんな話なんて当然あたしの耳には届かず、右から左に抜けていき、あたしはただ鏡に映るどんどん変貌していく自分ではない姿を見ていた。
「聞いてんのか?」
「うっさいな!!もう分かったから」
「聞いてんなら返事くらいしろ、常識だろ、じゃあ。行くぞ!」
そう、この日あたしは……
謎の男と出会い、水商売という世界に足を踏み入れた。
真っ白いドレスに身を包んだあたしは、その部屋を出た瞬間にあたしを消した。
白という色で……
「お前の名前は今日から未来な」
同時に《未来》という、女に生まれ変わった。
源氏名でもなんでもなく、あたしは未来になった。