⁂ダイヤモンド⁂
「ただいま」
誰もいない部屋だと分かりながらも、なぜだか今日はいつも口にしない言葉を玄関で静かに呟いた。
部屋は、昼間出て行ったせいかブラインドが開いたままで、そんな部屋に帰ってきたことのないあたしは、すぐさまそのブラインドを下げた。
電気を付けると、慌ただしく部屋を出て行ったかのような散らかりように驚いた。
こんな部屋のちらかり方は、ありえないことだ。いつも、仕事にいく為だけに化粧をし、寝るだけの為に帰ってくる。
それは、散らかることもなく、出かけることのないあたしは部屋をかき回す必要すらない。
だけど、今日は違った。
野球なんてものを観に行く為に、美波に起こされ、こんなにも部屋が散らかるほどに、仕事以外の準備に慌ててしまっていた。
キッチンで水を飲もうとしたら、いつもは1つだけ無造作に置かれているカップが見当たらなくて、流しの横を見ると、洗った食器をしまうスペースまで作られていて、その中に逆さになって置いてあった。
ああ、そうか……
最近はここに、いつも美波がいたのか。
綺麗に洗われているコップを1つ手にすると、水を入れ一気に飲み干した。
なんだか、自分の家なのにまるで他人の家にいるように思えてしまう。
電気もちゃんと付いているのに、なんだか暗く感じてしまうのは急に蛍光灯が切れそうになったわけでもないだろう。
リビングの方に歩きながら、静かにソファーに腰を下ろしCDコンポのリモコンを持った。