⁂ダイヤモンド⁂
「つーか、誰が来たの?」
黒服は一瞬だけあたしの顔を見つめるとすぐさま前を向いた。
「えっ?誰が来たの?ねぇってば」
今日来ると連絡が入っているのは安藤さんという大企業の社長さんだ。だけど、こんな早い時間から来るはずがない。
「未来のお気に召さない相手だよ!!」
それは背後から聞こえ「はぁ~?」と返すとお腹を抱えて笑っている店長がいた。
あたしは形相が変わっていたに違いない。
「本気で、嫌いなんだな。未来が客の名前聞いてそんな顔するの初めてだ」
いや、とてもじゃないけど笑えない。
しかも、なんであたしが席に着かなきゃいけないのであろうか。
待機所で女の子たちが盛り上がっていた理由が分かった気がした。
そして、こんなにも女のコたちをキャーキャー言わせているこの男の本性を大声で話してやろうか、とも思うほどに今のあたしの気分はとてつもなく悪い。
だけど、あのクソ男の指名は間違いなく、まだ来ていない美波のはずだ、それまでのつなぎ……?
「あのさ、今日安藤さんが後少しで来るって言ったよね?」
「だって、指名だもん、しかも俺に似て結構色男だと思うぜ?」
「はっ?……」
透かした顔で言う店長にあたしは言葉を失った。
「あっ、心配すんな美波がまだ来てないからと前置きがあったよ」
そんなんどうでもいい……
「じゃ、未来さん行きます」
まるで人事のように、フィールドに向かって歩いていく黒服の背中をこの時ばかりは後ろから蹴り飛ばしてやろうかとも思った。
なんであたしを……
絶対嫌がらせだ……
それでも歩かなきゃいけない、足が動きたくないって言っている
体が拒否している
それでも、あたしは唇を噛み黒服の背中一点を見つめていた。