恋ノ神

瀧太郎が帰ると、私はすぐにその「五十嵐 蒼」の所の向かっていった。
名前を聞けばすぐに居場所が分かるのは、私にとってはかなり便利だ。

私が向かったのは旧校舎の図書室。
雨に濡れたような後が黒くなって模様を作っている。
新校舎のほうは、白くいかにも新しいと言う感じがした。

壁をすり抜けて中に入ると、難しそうな古典や、小説が並んでいた。

さっき見た新校舎ではほとんど本と呼べるものがなかった。
現代向けの本・・・今では携帯小説と呼んでいるのか、そんなものが流行っている。
私自身は恋愛なんて全く興味がないから、たまに仕事の対応が分からなくなった時に読んで見たりはする。
ただし、今まで一度も役に立たなかったが。


アイドルだの王子様だのお姫様だの、現実味のない読み物なんて参考にもならない。
それと比べれば、私の「恋を叶えた経験」のほうがはるかに参考になるだろう。
最近の人間の理想のハードルは高すぎる。

・・・本の文句を言っている場合じゃない。

すぐ右の曲がり角を曲がって、読書席を見回すと、角の方に影・・・ではなく、人を見つけた。
あまりに静か過ぎて、気配さえ感じ取りにくかった。
名札にはたしかに「五十嵐 蒼」と書かれていた。

蒼と付くと、大抵は元気な明るい少女というイメージが付く。
しかし、彼女は予想を大いに外れていた。

「マジかよ・・・」

あまりの衝撃に、私は気づかぬうちに呟いていた。 
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