恋ノ神

しかし、その「幸」という人物が顔だけしか分からないと言うのは、こちらとしてはとても不利な事だ。
もっといい情報は無いのかと思ったが、その私の目の前で、友紀が急に走り出す。

「幸さん!」

何?
私がその方向を向くと、友紀があの幸と言う男の方に走って行く。
180センチほどあり、背が高い。しかし、その割には肩幅はあまり広くも無い。

「縁結び・・・だったのか?」
「はは・・・ちょっとね。両想いになれますようにって。」
「恋の神か・・・。ここでは確か、愛染明王だったかな。」

イェーイ、私です!
ふざけたことを言いながら寺の中でピースする。
幸はどうやら、こういうことに詳しいらしい。

「幸さんこそ、ここで何してたの?」
「別に、俺はほとんどする事が無いから、たまたま通りかかっただけだ。」

太くも柔らかさがある声、幸の手を握って歩く友紀を見ていると、もう既に幸せではないかと思う。
しかし、彼らの姿が全体まで見えるようになった時、私は思わず飛び上がってしまった。

幸の足先から脛まで透けている。

これは幻ではないのかと目をこするが、やはり透けている。
そういえば、先ほど幸がいた所も、丁度私の神社の鳥居の前。塩が両側に撒いてあった所だ。塩が嫌いで透けているだなんて、そんな生き物、私は1つしか知らなかった。
いや、正直に言えば生き物ではない。なにせ「生きていない」のだから。

あの男、「円不(えんぶ)幸」は死んでいる、つまり、

『幽霊』 だ。


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