恋ノ神
「何しに来たのさ。」
「別に」
素直に言えばいいのになぁ。
瀧太郎の面倒臭い行動に呆れて溜め息が出る。
しばらく沈黙が続き、二人ともその場に立っていた。
これはまずいと思い、私は横の本棚に手をかけ、8冊程の本を下に落とす。それに気付いた蒼は急いで本を片付ける。それを見ていた彼も少しだけ手伝う。すると、一度だけだが二人の手が重なる。予想通り、蒼は驚いて手をどける。 呼吸を荒くし、落ち着くと、蒼が席に座って本を読み始めた。一体何をしているのだと瀧太郎の耳元で怒鳴ってやりたくなる。
「用が無いなら帰ってくれ。」
蒼の発した言葉に、瀧太郎が顔をしかめる。
しかし怒る様子はなかったようでホッとした。
しばらくそこに立ちすくしたが、やがて蒼に近づき本を覗き込んだ。
「その本・・・なんて名前だよ。」
「・・・日本書紀。」
ほう、懐かしい。私も随分昔に読んだ事がある。
今もあったのか。
「面白いのか?」
「面白いけど・・・君が読んだら面白くないだろうな。」
その台詞からすると、きっと誰かに「面白くない」と言われたのだろう。
決め付けたような口調に対抗するように、更に本に顔を近づける。
「なんだよ」
「俺にも見せてくれよ。」
「面白くないって言ったろ。」
「うるせぇな。」
男同士の言い合いのような会話だ。
それでも、何だか打ち解け合っている。