恋ノ神
男は止めを刺すかのように、瀧太郎の顔にグラフィティアート用の赤いスプレーを振りかけた。
顔は見る見るうちに赤く染まっていく。
男達が去って行った後、瀧太郎は壁にもたれながら呆然としている。
彼は冷静だったのか、すぐに近くにあった公園の水飲み場で顔を洗った。
「出文・・・?」
声のしたほうを向くと、蒼がいた。
犬の散歩をしていたのだろう。大型の茶色い雑種犬だ。
「五十嵐・・・」
対応するかのように瀧太郎も口を開く。
蒼はまだ瀧太郎の目元についていた赤いスプレーの後に目をやる。
「・・・どうしたんだよ、それ・・・」
「知らねぇよ。」
いきなりやられた、何て言えなかったのか、瀧太郎は顔を背ける。
私は蒼の心配げな目を見て呟く。
「しまった・・・。」
これで瀧太郎に対する悪印象が完全に付いた。
彼がたまたま負けてしまったのを見てしまったのだ。
2人は以前のように話すことなく、まるで出会った最初のように沈黙が続いていた。
そして、しばらくしてから瀧太郎は何も言わずにその場から立ち去っていった。
「あ・・・」
突然立ち去られたため、蒼は立ったまま何も言わなかった。