恋ノ神
「俺だって好きで教師になったわけじゃねぇよ。たまたま運動神経がよかったから体育の教師になっただけだっつうの。」
それは教師にあるまじき発言だ。
私は声が聞こえないのをいいことに児玉の横で大笑いする。
職場で素直にこんなこと言う人間もいるのだなとある意味感心する。
笑いが次第に静まってきたと同時だろうか。
職員室に誰かが入ってきた。
「コーヒー、誰かいりませんか?」
ゆったりとした優しい響きを持つ声の主は男。
背は高くも低くもなく痩せていて、オカッパのように柔らかそうな髪がそろっている。
目は児玉のような鋭い目ではなく、ほんのりと緩やかな光を放つ瞳。
文系男子と言う言葉がよく似合いそうな青年だった。
名札を見てみると『藪雨(やぶさめ) 学』と書かれていた。
そうか、コイツか・・・。
美咲のようなギャル系とは釣り合いそうにないが、確かに彼の性格や容姿は、女性に好かれなくもなかった。
「あ、俺欲しい。」
「私も。」
児玉と先ほどの若い女性が手を挙げると、学はコップを持ってポットに湯を注ぐ。
コーヒーを持っていくと、女性は付け足すようにして言う。
「ごめーん、砂糖もお願い。」
「あ、はいっ」
学はいそいそと角砂糖を持ってくる。
「おいおい、あんまり使いっぱしりにすんなよ。」
コーヒーをすすりながら児玉が言う。