恋ノ神
奇跡と花

2010年・10月3日・・・・・・

お百度参り、という奴か。

私は願い事をしに来た少年を見て思う。
さっきから何度も寺に入っては必死に願っている。

―中山(なかやま)優(すぐる)

普通よりは小柄な方で、それでも人を引きつけるには十分整った顔つきだった。
しかし、彼には普通よりも少し枠の外れた所がある。
優には私と同じ、心の声を聞く才があった。
何十年に1人か2人、そんな才能を持って生まれる。
そのような人間の事を「神に選ばれた者」というが、私達神はそんな風に人に力を授けた覚えはない。

彼が寺に来た時は、彼も恋愛祈願かと思ったが、願いの内容はこうだった。

「ツツジを、死なせないで下さい。」

それから同じ願いを何度も繰り返している。
優が帰った後に調べて見ると、彼女は菊野病院という病院で入院している。
彼女の病気は、癌。
優曰く、この入院が最後らしい。

私は居場所をつきとめると、寺から出て菊野病院に向かって飛んで行った。
211号室の札がついたドアの前に立つ。
『朝顔 ツツジ様』
アサガオかツツジかどっちなのだ。
冗談をかましてみるが聞こえるわけも無く、大きく息を吐いてドアをすり抜けた。



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