恋ノ神

白い病室には誰もおらず、ただ1人だけ、窓際にいる少女に目を向けた。
癌は抗がん剤で髪が抜けるものだが、ツツジは背中まで髪が伸び、風で綺麗になびいている。小柄で、顔も小さい。
顔を見てみようとツツジの前に出た。
どうせツツジには見えないから分からないだろう。
安心してツツジの前に出た。その時、ツツジが明るい顔で言った。

「僕を迎えに来たの?神様。」

まさか見えてた?
人の視界には入っていないはずだと焦るが、とっさにあることを思い出す。
そういえば、死までの時間が残り少ない人間は、神の姿を見ることが出来るんだった。
死の近い人間は担当したことが少ないため、忘れかけていた。

「いや・・・まだ君が死ぬには早いってか・・・。」
「そっか。良かった。」

神を前に驚きもせず、そして死が近づいていることに怯えもしずにツツジは微笑んだ。

「じゃあ神様は何をしにきたの?」
「いや・・・君の様子を見に・・・」

嘘だ。
しかし、願い事の内容をばらす訳にも行かない。

「君は、優君とは仲良くやってるのか?」
「うん!」

綺麗に澄んだ声。
濁った様子など全く無かった。
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