恋ノ神

神社に帰ると、私は重要な事に気付いた。
優の願いは「ツツジを死なせないで。」だ。
恋を叶えるのは簡単な事だが、いくら私でも、人の命を救うことまではできない。

「あの子もいずれ・・・死んじまうのか。」

1人で呟いていると、「死」と言う言葉が頭を過ぎる。

「死についてのことなら、専門がいるじゃあないか。」

そういうと、私は神社の奥にあった神にしか見えない扉を開ける。
黒々とした闇の扉をあけると、向こうは影ばかりの世界に足を踏み入れた。

ここは冥界。
簡単に言えば死者の国だ。
三途の川を通り越した所にある国。
ケルベロスが見張っており、私を見て一度は唸ったものの、私の姿を見るとまるで飼い馴らされた犬のように懐いてくる。
それもそうだろう。私は何度もここに来ており、もうすっかりケルベロスも私に慣れてしまった。三つの顔に同時に舐め回され、顔が涎だらけになる。
そこを通って黒い建物に入ると、階段を上って上に上がる。

小さな扉をあけると、私と同い年くらい(見た目で、だ)の少年が、コタツに座ってお茶をすすっている。
髪が長めで、身長は高くも低くもない。
まったりとした雰囲気の少年。
コタツの上には手作りらしい和菓子がある。

「あ、ゼンさん!ようこそ!」

ゼンというのは私のこと。
愛染明王という名前からとってゼンだ。

そして、彼は冥界のハディス。
正真正銘の死神だ。
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