恋ノ神

先程の晴の豹変の事は大して気にしなかった。
どうせ男嫌いだろう。

「そういえば凛々乃、今日朝神社で何してたんだ?」
「ハウッ!」

晴の質問に凛々乃は息を詰まらせたような声を上げる。
これが私の神社のことを言っているのだと気付いた時、私も声を上げる。

「はぅあ!」

まずい。
仕事のことがばれないように、私はひたすら祈る。
人の心を操れる能力があったとしても、私に人の記憶を取り除く力はない。
しかし、凛々乃が「あたしに彼氏作れますようにって・・・」と嘘を言ってくれたお陰で、依頼の事がばれる事はなかった。
凛々乃としても、ばれてはいけない願いだったのだろう。


弁当を食べ終えた2人をつけるように私は後を追った。
屋上を下りて行くと、彼女らは図書室に向かった。
ある意味文芸少女かと感心しかけたが、2人が読んでいたのは今でも流行の携帯小説。
晴の読んでいる本を覗き込んでみると、ほとんどが言葉や内心の言葉。
もう少し古典などは読む気は無いのか、と私は言ってやりたくなる。
やはり最近の若者は簡単な本が好きらしい。
私としては「東海道中膝栗毛」や馬琴の「南総里見八犬伝」が好きだったのだが。
一見本が好きなように見えた彼女らだが、晴はフンと鼻を鳴らし、本をたたむ。

「男女関係がこんな上手くいくわけないだろ。」
「王子様なんていつの時代の話だよ。」

それに付け加えるように、私も言った。
「日本に王子なんていないけどな。」
殿や貴族はよく聞いたが、王子はいない。



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