恋ノ神
死神と悪魔
1997年、6月16日。
仏像の中でぽりぽりとスナック菓子を食べながら、私は今日も客を待っていた。
CDで流行の音楽を聴きながら、今回の客を迎え入れる。
鳥居をくぐって入ってきたのは、16歳くらいの少年だった。
真っ黒できりっとした目は、虹彩までも黒く、悪魔を思わせた。
悪魔が何で神の所に来るんだろうな。
そう考えたら面白くなった。
悪魔もとうとう神の所に来たのか。
・・・なんて可笑しく考えている暇はない。
願いとターゲットと聞き遅れたら大変だ。
耳に神経を尖らせ、虫の羽音も足音も、全て耳に入るような思いで、彼の一言を聞いた。
「五十嵐 蒼(アオ)と、両想いになりたい。」
少年の心にあった声を、私は声に出して朗読した。
蒼というのは女らしくない名前だ、と思いながら少年の名札を見る。
―出文(イデフミ)瀧太郎(ソウタロウ)
「デモン・・・?」
昔はよく文のことを「もん」と読んでいたので、そう見えてしまった。
「デモンって書いてイデフミ?・・・ややこしい名前だな。」
デモンと言う言葉は、何気にデーモン(悪魔)を思わせ、一層に悪魔の印象を強めているように見えた。