屍都市Ⅱ
口煩くて礼儀や躾にうるさい牧師だけど、この抱擁はマリも好きだった。

温かな牧師の胸の中は、何だか安心できた。

なのに。

「…牧師さん?」

今朝の牧師の体は、どこか冷え切っていた。

何というか…体温がないに等しい冷たさなのだ。

それでも何とかマリの体を温めようと、牧師は力一杯彼女を抱き締める。

「いいですか?マリ…全ての人は平等に生まれてきたのです。親がいないから、肌の色が違うから、信じるものが違うから、住む国が違うから…そんな事で幸せになる権利は得られたり奪われたりするものではありません…人は皆、幸せを得る権利があるのです…」

いつものようにお説教を始める牧師。

しかし彼の体温は、急激に失われていく。

「困った時は助けを求めなさい…手を差し伸べられた時は迷わずその手を掴みなさい…そんな者にこそ、神は祝福を与えてくれます…全ての人々は神に愛される為に生まれ落ち、生きているのですから…」

ポタポタと。

牧師の背中から滴が滴る音がした。

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