HEAVEN -天国の階段- (全106話)
■マリアアザミ
○Side MARIA
【ねぇ恭平? ミルクシスルってハーブ知ってる?】
【…俺が解るわけねーじゃん。】
【別名でマリアアザミって言うのよ? HEAVENで出すハーブティーにピッタリじゃないかしら?】
何処から仕入れてきた情報なのか、紗羅は得意げに言った。
でもどうしても俺の口に合わなくて、マリアアザミはメニューから消えた。
「あー… 飲み過ぎたぁ…」
いつものように閉店間近のHEAVENに哲也がやってくる。
『飲み過ぎは肝臓に悪いよ。』
「マリアに言われたくねーよ… 底無しのくせに…」
少し気分が悪そうに見える哲也にティーカップを差し出す。
中身は…
あの日、紗羅が教えてくれたハーブティー…
「いっつも出してくれるよな、このお茶。 何て言うの?」
『ミルクシスルティー。 肝臓にいいハーブティーなんだって…』
紗羅の事だから「マリア」の名からこのハーブティーを選んだんだろう。
あれから俺は色々と調べたよ…
マリアアザミの名は聖母マリアに因んで付けられた事や、肝臓の薬としても使われている事…
『ミルクシスルって、他にマリアアザミって呼ぶんだ… HEAVENにピッタリだろう?』
メニューからは消えたけど無料のサービスとして、今もお客様の口に入ってるよ…
「マリアって詳しいのな。 興味なさそうに見えて…」
『興味なんてないよ。 ただ昔の恋人が気に入ってた花だから。』
聖母マリアから付けられたマリアアザミの名は…
どちらかと言えば俺より紗羅に相応しい。
「未練たらたらってやつ? マリアがそんな優しい顔すんの初めてだし。」
『…さぁ… 強いて言うなら、残ってるのは未練ではないかな?』
命懸けで俺を守ってくれた紗羅…
彼女に何もしてやれなかった事が後悔として残ってる…