HEAVEN -天国の階段- (全106話)
■消えない悪夢
○Side MARIA
【汝―…鞠亜恭平は―…を妻とし…―】
幸せを告げる鐘が鳴り響き、太陽の光はキラキラと道を照らした。
真っ白なウェディングドレスを身にまとった君に手を伸ばす。
その瞬間…
君の体は水風船のようにパチンと弾け、君がいたはずの場所には赤い水溜まりだけが残っていた。
それは、未だ繰り返す悪夢…
『どう? 似合うかな?』
駅ビル内のブティック…
カンナはワンピースを手に取ると、こちらに尋ねた。
『とりあえず試着してみたら?』
『うん、そーする!』
何が楽しいのか満面の笑みを見せる。
やっぱ女の子だなぁ…
カンナが試着室にいる間、暇つぶしにと服を見る。
店内の1番目立つ場所に、春の新作と札が付けられたワンピースがあった。
丈が膝上までの真っ白なワンピース…
それは俺にウエディングドレスを想像させる。
ウエディングドレス…
真っ赤な水溜まり…
たかが夢だと笑うだろうが、決して忘れられない悪夢だ。
『恭平、着てみたけど…どうかな?』
そんな声で我に返る。
振り返ると黒いふんわりとしたワンピースを身につけたカンナが立っていた。
『うん… よく似合うよ…?』
俺はワンピースの色が白くなかった事に、少しホッとした。
『これで恭平と歩いても不自然じゃないよね!』
カンナは鏡の前でクルクル回るとニコッと笑って言う。
よく笑う所…
よく動く所…
本当に紗羅によく似てる。
『きゃ…ッ』
咄嗟に腕の中に閉じ込めると、柔らかくて暖かい感触があった。
『…良かった…』
『きょ…恭平…?』
抱きしめて、実体が無かったらどうしよう…
そんな不安が急に襲ったんだ。
良かった…
君は「人間」だった…