HEAVEN -天国の階段- (全106話)
■空耳
○Side MARIA
【ね、恭平… 私の事…忘れていいから…】
ゼロに近い視界の中、手探りで俺の顔を探る。
【他の人…好きんなっていいからね…?】
涙を流しながら、最後の力を振り絞り笑顔を見せた。
君は強い…
姿形は弱くても、心は誰よりも強かったね…
『馬ぁ鹿… お前よりいい女なんていねーよ。』
俺の言葉を聞いてか、道路脇に供えられた花達は静かに揺れた。
これで2年と1ヵ月。
紗羅のいない世界もそろそろ慣れた。
でもね…?
寂しさは消えないんだよ…
『さてと、もう行くわ… お前そっくりなお嬢さんが車で寝てっから。』
そう言い残すと、まだ揺れる花と静かな公園に背を向けた。
車に戻るとカンナが静かに寝息を起てながら、俺のマフラーを腕に抱きしめていた。
まだ幼さの残る横顔…
それは出会った頃の紗羅を思わせた。
そっと頬に触れると、少しくすぐったそうに微笑む。
『…紗…羅…?』
どれくらいぶりに呼んだだろう…
発せられた音と共に、ポツリと涙が落ちた。
家に着いてもカンナは目を覚ます事なく、また俺のベッドを占領した。
それと同時、玄関のインターホンが鳴り響く。
『はい、どちらさまで…』
「マリア、遅かったじゃない! 電話も出ないし!」
扉を開けると同時、女の人が乗り込んでくる。
この人は…
『直子さん!』
HEAVENのすぐ近くにある店のホステスさん…
『どうしたんですか? 家にまで来たりして…』
「だってマリアに会いに行ったのにお店にいないんだものー…」
直子さんはそう言いながら俺の首にぶら下がると、首筋に軽くキスをした。
「…上がってもいい…?」
耳元で囁かれる声がいつもより低い…
それと同時にふと、小さな声が聞こえた。
「恭平」と…
…カンナ…?
それとも…紗羅…?
「マリア、どうしたの?」
『…ごめんね、先客がいるから…』
不思議そうな顔をする直子さんに構わず扉を閉める。
部屋は相変わらず静かなまま…
『…ごめん…な…?』
こんな馬鹿な俺…
君はまだ止めてくれるんだね…