HEAVEN -天国の階段- (全106話)
■現実逃避
黒い乗用車…
車内は静かな音楽と甘い芳香剤の香り…
『良かったねー、俺が酒飲む手前で。』
『はい…』
どうして私がマリアの車に乗っているか…
それは数分前に遡る。
『私の家って何処ですか?』
迷子になった私にマリアは呆れながらも助け舟を出してくれた。
『住所は? 近場なら送ってくよ。』
その言葉に安心し、知らない人の車に乗ってしまったのだ…
『ところで名前は? まだ聞いてなかったよね?』
『はいッ 角崎カンナです!』
『ふーん… 10月生まれ?』
『え…?』
『俺、神無月って1番好き。』
一瞬、すごくビックリした…
私の事、見抜かれたのかなって…
『…貴方は? 名前、何ていうの?』
『…マリア…』
『…絶対に嘘…』
あのオカマの名前が「愛里」であるように「マリア」も偽名。
そう思ってた。
『やっぱ嘘だと思う? んじゃ恭平でいいよ。』
『恭平…』
それが貴方の名前…
あまりに綺麗な顔だから疑ってたけど、やっぱり男の人だよね…
『最悪… 渋滞してるわ…』
マリア…いや、恭平は不服そうにそう言うと煙草を口にくわえる。
『あ、ごめん。 妊娠してない?』
『へ、平気! 気にしないで吸って!』
私の言葉に優しい笑みを見せる恭平…
おかしい…
心臓の脈打つ音がいつもより早い…
なのに、息苦しくない…
『あのさ… 恭平って、よくあそこにいるの?』
『あそこって… HEAVEN?』
『うん。』
『買い物とか用事なければいるよ。 何? また来たくなった?』
『…わかんない…』
わかんないけど…
あの場所だけは現実から離れてる気がして…
何だかすごく気楽だった…