HEAVEN -天国の階段- (全106話)
■好き

「何で逃げるんだよ」

私の手を掴む伊藤くんが力強くて、腕が軋む。
捻挫する手前のような痛みが続く。

【送り狼なんて今時、流行んないよ】

ふと、恭平のそんな声を思い出した。
合コンの後のあの言葉を…

「ちょッ 角崎さん?!」

それと同時、生温い涙が零れた。

「ご、ごめん! 恐がらせるつもりじゃなかったんだけど…」

伊藤くんはそれに怯んで手を静かに下ろす。

『…ごめんなさい… 逃げるつもりじゃなくて…』

「逃げたかった」わけじゃない。
「行きたかった」んだ。

『私… 今すぐ会いたい人がいるの。 だから…ごめん…』

恭平のいるあの場所に…





電車に乗り、いつものようにHEAVENに向かう。
途中、「あの」公園が見えた。

しまった。
犯人が近くにいるって聞いて、避けてたのに…

…仕方ない。
早くHEAVENに行こう。

意を決して公園に近づくと、いつものように綺麗な花束。

でもそこにはいつもと少し違う様子が…
人が…いたんだ。

襟足を少し長めに伸ばした黒髪。
長い睫毛に前髪がかかる。



『………恭平…?』

私が見間違うはずがない。
両手を合わせ、祈るように目をつむる。
その横顔は、恭平以外の何者でもなかった。

『…カンナ…』
『…こんばんわ…』

久しぶりに見る恭平は、少し疲れたように見えた。

『学校帰り? …にしちゃ少し遅いか。』

スッと立ち上がったかと思うと、すぐに背中を向ける。

行ってしまう…ッ

『恭平…ッ!!』

言ってないのに…行っちゃう…ッ

『…好きだよ…ッ 別れたくないよ…』

もう、後悔したくないよ…
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