HEAVEN -天国の階段- (全106話)
■天国が出来るまで

あと30分。
あと15分。
あと10分。
あと5分。

時が経つのってこんなに遅かったっけ?
HEAVENの閉店までの数時間が、何日にも思える。

【私から詳しく話すわ】

詳しい話って…
一体、どんな内容だろう。





しばらくして私の待つ奥の事務所に愛里がやってきた。
人目を気にするようにキョロキョロと辺りを見回しながら入ってくる。

「ごめんなさいね、こんな遅くまで待たせて…」

時刻は12時近い。
お店の片付けも済ませてきたんだろう。

「何処から話せばいいのかしら… マリア達の関係からかな…?」

愛里はそう言って烏龍茶をグラスに注ぐ。

「ハッキリ言うわね? マリアと紗羅はとても仲の良い夫婦だったの。」

…そうか…

【綺麗な奥さんだったよ】

だから恭平はあんな事を言ったんだ…

「2人の出会いはね……






桜咲く4月。
高校の入学式で2人は出会ったという。

流れる時の中、2人は惹かれ合い…
自然と関係が出来上がっていた。

【ねぇ恭平、恭平は進路希望の紙出した?】

高校3年生の春。
紗羅は恭平に言う。

【私、恭平と2人で小さな喫茶店をやりたいの】

「馬鹿な事を」と失笑する恭平に紗羅は目を輝かせて続けた。

【名前も決まってるのよ! ヘブンっていうの】
【ヘブンって、天国?】
【そっ HEAVENは天国って意味なの】

理由は解らないが、紗羅はパラダイスよりヘブンに楽園を感じていた。

18歳の少年少女が憧れを現実に変えた。




「お客さんは少ないけど暖かくて大好きだったのよ、私…」

それが「喫茶HEAVEN」の始まりだったという。
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