HEAVEN -天国の階段- (全106話)
■雨の夜
あれはいつの日だったか。
オーダーストップがかかった閉店間際のHEAVENに1人の男がやってくる。
外は雨。
男はずぶ濡れでカウンターに腰を下ろした。
【珈琲… いただけますか?】
か細い声でそう言うと、持っていた赤い花柄のハンカチで髪を拭く。
【すみません。 もう閉店なんで…】
そう言ったのはまだマスターになる前の恭平で、彼はカウンターの中を片付け始めていた。
【いいじゃない恭平。 大切なお客様よ?】
奥からそう声がして、珈琲のいい香が漂ってくる。
【いらっしゃいませ。 HEAVENにようこそ】
優しい笑みと美味しい珈琲…
それを与えてくれたのが、その時にマスターだった紗羅だった。
【素敵なハンカチですね? 汚したら勿体ないので、こちらを使ってください。】
すかさず紗羅はそう言って、柔らかなタオルを差し出す。
クルクル表情を変え、誰にでも暖かく接する事の出来る女性。
それが紗羅だった。
男は閉店時間を超えても、席を立とうとしなかった。
男には帰る場所がなかったのだ。
「性同一性障害」
体は男、心は女。
彼…いや、彼女はそれに対する偏見から居場所を失ってしまった。
【帰る所がないならHEAVENで働けばいいじゃない】
紗羅はそう言ってお店のエプロンを渡す。
こんな自分が働いたら、お店に迷惑をかける。
彼女はそう思い、エプロンを突っ返すが紗羅も負けてはいなかった。
【ここは天国よ? 年齢も性別も関係ないの。 名前だって自由に名乗ればいい】
年齢も性別も…
名前すら関係ない天国で、彼女は生まれ変わった。
【愛里は? とっても可愛くて、貴女に似合うと思うの】
愛里という新しい名で、新しい人生が始まったのだ…
あれはいつの日だったか。
オーダーストップがかかった閉店間際のHEAVENに1人の男がやってくる。
外は雨。
男はずぶ濡れでカウンターに腰を下ろした。
【珈琲… いただけますか?】
か細い声でそう言うと、持っていた赤い花柄のハンカチで髪を拭く。
【すみません。 もう閉店なんで…】
そう言ったのはまだマスターになる前の恭平で、彼はカウンターの中を片付け始めていた。
【いいじゃない恭平。 大切なお客様よ?】
奥からそう声がして、珈琲のいい香が漂ってくる。
【いらっしゃいませ。 HEAVENにようこそ】
優しい笑みと美味しい珈琲…
それを与えてくれたのが、その時にマスターだった紗羅だった。
【素敵なハンカチですね? 汚したら勿体ないので、こちらを使ってください。】
すかさず紗羅はそう言って、柔らかなタオルを差し出す。
クルクル表情を変え、誰にでも暖かく接する事の出来る女性。
それが紗羅だった。
男は閉店時間を超えても、席を立とうとしなかった。
男には帰る場所がなかったのだ。
「性同一性障害」
体は男、心は女。
彼…いや、彼女はそれに対する偏見から居場所を失ってしまった。
【帰る所がないならHEAVENで働けばいいじゃない】
紗羅はそう言ってお店のエプロンを渡す。
こんな自分が働いたら、お店に迷惑をかける。
彼女はそう思い、エプロンを突っ返すが紗羅も負けてはいなかった。
【ここは天国よ? 年齢も性別も関係ないの。 名前だって自由に名乗ればいい】
年齢も性別も…
名前すら関係ない天国で、彼女は生まれ変わった。
【愛里は? とっても可愛くて、貴女に似合うと思うの】
愛里という新しい名で、新しい人生が始まったのだ…