HEAVEN -天国の階段- (全106話)
■幸福論
ふと思う。
「世の中に幸せな人っているのか?」
幸せそうに見える恋人達だって、笑顔のすぐ裏には不満がある。
私だって…
もしかしたら他人から見て幸せそうに見えるかも知れない。
やっぱ本当に幸せな人っていないのかな…
「なぁーに言ってるの! 私はマリアの傍にいるだけで幸せよッ!」
私の呟きに愛里は即答し、すぐ隣の恭平の腕にすがった。
確かに幸せそうだけどね…
『…恭平は? 幸せってあると思う?』
「駄目よッ マリアは忙しいんだから!」
『愛里に聞いてないじゃん!』
恭平を庇うようにして立ちはだかる愛里を退かそうとしても、ビクともしない。
やっぱ力も男並みだぁ!
そんな私達を見て恭平は思わず笑ってしまったようだった。
『俺はあると思うよ? 短い幸せだけどね。』
『…短い?』
『永遠に続く幸せなんて不公平だろ? 皆、順番に幸せな時が来るよ…』
そう言って笑う恭平は女の私から見ても、目を見張るほど綺麗だった。
長めに伸ばした黒髪は「黒」と言うより透き通るような「青」…
『じゃあさ、永遠に続く不幸もないの?』
『うん? それは人の考え方でしょ。』
『…ふーん…』
恭平の言う事はちょっと大人で理解しにくい。
私がもうちょっと大人になったら恭平の考え解るのかな…?
「マリアの言う通り幸せなんてものは人の捕らえ方よ? ねぇ、マリア。」
キュキュっとワイングラスを磨きながら恭平を見る愛里。
『なぁにそれ。 刺々しい言い方しちゃって…』
「そう聞こえたかしら? マリアは少しマイナス思考な所あるから、忠告よ。」
『それはどうも、ご親切に。』
恭平は「まいった」と言わんばかりに苦笑すると、愛里の磨いたグラスを片付けた。
幸せ…
それはいつか、私の元にもやってくるだろうか…