HEAVEN -天国の階段- (全106話)
■助けて

次に紗羅を見たのは病院の霊安室。
空気が冷たくて鳥肌が立ったのを覚えてる。

【部屋が寒いのかしら】

本当にそう思った位、紗羅の顔は真っ白で氷のように冷たかった。

でも綺麗な顔をしていた…

【愛しい人を守ったのよね…紗羅…】

犠牲は紗羅ただ1人。
恭平は重傷を負ったものの、命に別状はなかった。

幸か不幸か…
その日から彼は変わってしまった。

重い過去を背負い、誰を愛する事なく…
気付けば2年が経ってしまった。
あの日、20歳にも満たなかった少年はもうすぐ22歳になる。





「カンナは現場に供えられた花を見た事ある?」

愛里はそう言って窓の外の闇を見る。

「2年間… 一日たりとも忘れていない。 毎日、花が違うのよ?」

それはずっと気付いていた。
誰かが花を代えにくる事…

私はそこまで自分を愛してくれる人がいる事を、羨ましいと何度か思った。

あれがまさか恭平だったなんて…
思ってもみなかったよ…

「お願いカンナ、あの子を助けてあげて… もう前に進まなきゃ駄目なのよ…ッ」

ポロポロと零れ落ちた涙はテーブルの上に小さな水溜まりを作る。
水溜まりは話が長引くと共に広がっていった。

【幸せだよ】

確かに恭平はそう言った。
過去が拭えなくても…
一瞬でもいいから、もう一度聞きたい。

恭平に幸せを与えたい。

私にそれが、出来るだろうか…
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