HEAVEN -天国の階段- (全106話)
■笑顔

血まみれのネックレス。
裏には誰かの指の痕。

どうして恭平はあれを洗わなかったんだろう。
壊れたわけじゃないんだから、綺麗にすればまだ使える。

そうしなかったのには、何かわけがあるからだ。

恭平…
一体、何を考えてるの?





下校途中、恭平のマンションに寄ってみる。

《ぴんぽーん…》

しかし何度、インターホンを鳴らしても出てこない。
中にはいないのだろうか…

お店にも家にもいなくて、何処を捜せばいいのか。
私には見当もつかない。

あと1つ、思い当たる所と言えば…

『紗羅さん…』

確か今日はまだ、昨日と同じ花があった。
これから恭平が来る可能性は大きい。

行ってみる価値…
大いにある。

『よしッ!』

玄関の扉の前。
気合いを入れ直し、空を見る。

空は青く澄み渡り、雲一つなかった。
そのまま風の吹く方へ、歩を進める。

見慣れた景色が視界の隅を横切っていった。

足がクタクタになるくらい歩き続け、前を見る。
遠い景色の中に小さな花束を持った男の人が見えた。

『…良かった…』

ここで会えなかったら行く宛もなかった。
最後の賭けは見事に的中したんだ。

恭平はこちらに気付かないようで花束を歩道に置き、自分も腰を下ろす。

HEAVENは愛里に任せきりでも、ここには自分で来る。
そんな恭平の姿に涙が滲んだ。


長い時間、恭平はボーっと花を見て立ち上がろうとはしなかった。

『恭平…』

ついにいてもたってもいれなくて、私から声を掛ける。

すると恭平は静かに振り向き、小さな笑顔を見せてくれた。

『カンナ。』

久しぶりに笑った顔を見せてくれた事が嬉しくて、涙が頬を滑り落ちた…
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