HEAVEN -天国の階段- (全106話)
■天国へ

何をしても、何を言っても恭平は止まらない。
紗羅さんへの想いが消えない限り、恭平は犯人を追い続けるだろう。

『ねぇ… 恭平は幸せになりたいって思わないの?』

恭平にそう問い掛けると、一瞬だけ小さく反応した。

『恭平がこんなんじゃ、紗羅さん成仏出来ない! 彼女の分まで幸せにならなきゃ…ッ』

誰かに聞いたか、映画で見たか…
もう覚えてないけど、こんな言葉があった。
【死んだ人間には勝てない】って…

所詮、生きてる私が紗羅さんに敵うはずがない。
紗羅さんはこの世にいない代わりに、恭平の中にずっといる。

『…わかった、恭平…』

紗羅さんに敵うにはコレしか方法がないのかも知れない、と思った。

『私が天国に行って、紗羅さんに聞いてくる。 恭平のしようとしてる事をどう思うか。』

私の言葉に恭平は驚いたように顔を上げた。

『…待ってて。 すぐに聞いてくるから…』

そんな恭平に笑いかけ、ベランダに通じるガラス戸を開ける。
冷たい風が頬を撫でた。

エアコンの室外機に上れば、見慣れた街が一望できた。

恐怖はさほど感じない。
何故か自分の行動に疑問すら感じなかった。

『紗羅さんが反対してたら… 恭平も馬鹿な事やめてね…?』

あと少し。
ベランダの手すりに足をかけて飛ぶだけ。
たったそれだけの事。

ゆっくりと右足を手すりに乗せる。
あと左足を…

そう思った瞬間、グッと腕を引かれベランダのコンクリに肩を打ち付けた。

『…痛…』

痛みに目を歪めながら前を見る。
すると私にのしかかるように恭平がいた。

『恭平…』
『意味…解んねーよ…』

私の手を床に押し付ける恭平の手…
小刻みに震えていた。

『もう…人が死ぬの見たくない…』
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