小悪魔カレシ。


「こら一ノ瀬!廊下を走るんじゃなーい!」

「すいませーん!」


廊下で教室へと向かう先生たちを追い抜かし、何とか扉の前へと辿り着く。


あたしが勢い良くクラスに飛び込むのと、チャイムが鳴り響いたのは同時だった。


「セーフ……っ!」

ギリギリだったけれど、何とか遅刻せずに済んだ。

あがる息を抑えつつ、席につく。


「珍しいわね、凜が遅刻なんて」

あたしの前の席から振り向きざまににんまりと笑みを向けてきたのは、親友の犀川澪(サイカワミオ)。


綺麗な亜麻色の髪は緩く巻かれていて、垂れ目がちのぱっちりした目の下には泣きボクロ。

ぷるぷるの唇はグロスで彩られていてますます色っぽい。

あたしと違って胸も立派だし、澪は同い年とは思えないほどセクシーだ。

大人っぽくてサバサバしてる彼女とは、2年連続で一緒のクラス。

付き合いやすくて、入学以来ずっと仲良くしてる。


「神田川(カンダガワ)リキのドキュメンタリー番組が深夜にやってて、つい」

「出た出た、凜の格闘技マニア……」


一気に呆れ顔になった澪にはあたしの気持ちなんか分かるまい。

私がどれだけその番組を心待ちにしてたかをっ!
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