犬に恋した。
第一章


黒板に書かれた文字を、俺はじっと見つめていた。


「いぬ……」


何度見ても、そうとしか読めない。


「犬 諒子(けん りょうこ)です」

黒板の前に立つ彼女は、ひと言言った。


高二の秋だった。


もうすっかり寒くなったというのに、教室には暖房器具がなにもなかった。

そのおかげで、みんな白い息をはき、寒い寒いと騒いでいる。


彼女は寒さに強かった。


「なんでみんなそんなに寒がってるのかな?」

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