犬に恋した。


「そっ、かぁ」


妙に低い声で優斗は言った。


「ごめん、ね」


彼女のその言葉は、感情は全くこもっていなかった。


それは、優斗にも共通する、悪い癖だった。


「いいよ。
変わりと言ってはなんだけど、その好きな男教えてくれない?」


「えっと、それは……」


ダメだ。

言っちゃいけない。


きっとそれを聞いたら、優斗はその男に殴りかかる。



「……あなた」



その言葉とほぼ同時に、横から強烈なパンチが飛び込んできた。

俺はあまりに急なことだったので、それをかわすことは出来なかった。


彼女が言葉を発したとき、彼女の人差し指は俺の方向を指していた。


俺は、無言のまま、頬に手を当てる。



「ご、ごめんっ」



そう言って優斗は走り去る。

やっぱり感情は、こもっていなかった。

< 7 / 8 >

この作品をシェア

pagetop