犬に恋した。
「そっ、かぁ」
妙に低い声で優斗は言った。
「ごめん、ね」
彼女のその言葉は、感情は全くこもっていなかった。
それは、優斗にも共通する、悪い癖だった。
「いいよ。
変わりと言ってはなんだけど、その好きな男教えてくれない?」
「えっと、それは……」
ダメだ。
言っちゃいけない。
きっとそれを聞いたら、優斗はその男に殴りかかる。
「……あなた」
その言葉とほぼ同時に、横から強烈なパンチが飛び込んできた。
俺はあまりに急なことだったので、それをかわすことは出来なかった。
彼女が言葉を発したとき、彼女の人差し指は俺の方向を指していた。
俺は、無言のまま、頬に手を当てる。
「ご、ごめんっ」
そう言って優斗は走り去る。
やっぱり感情は、こもっていなかった。