夢幻の姫君
目をそらしたら失礼だと思った私は、そのまま微笑む。

何で、笑ってんの!! と自分に突っ込みたかった……

その女の人は目を見開いて止まった。

 やっぱり? 変だよね? 私。 そそくさと立ち去ろうとしたら、呼び止められた。

「春姫様?!」
「えっ?」

その女の人は私を見ながら、駆け寄って来た。信じられない…と言いながら。

「お帰りになられたんですね? 姫様!! お会いできて光栄です!!」

私の手を握って、感激です~ と言いながらウルウル目で見られた。

 え~、あ、あの、私 わかんないんだけど~?
春姫は私らしいけど、記憶ないからどうすれば言いかわからない。

だれか~~~ 助けて~~~

「姫!!」

来た!! 天の助け!! 

「勝手に外に出ないでください。肝が冷えましたよ。ハァ」

心配されても、ホッとした。どうすればいいかわからなかったから。

「ケイ様!! 姫はいつお戻りになられたんですか?」

健人は、苦笑いしながら答える。

「昨日です。ですが姫様はこの世界の事を覚えてらっしゃらないんです。“あの事件”が有ったからなのかわかりませんが」

女の人は、衝撃を受けたように固まってしまった。
 代わりに男の子が訊く。

「夢がなくなってしまったこの国に、“また”夢を与えにきたの? 与えたら“また”消えちゃうの?」

え……? “また”?
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