夢幻の姫君
桜の花が、舞う。

夏の空に、暑い教室に。

クーの力は使用時に花が舞う。桜が。
 その代わりクーに言霊(呪文)は必要ない。
ただ思った事を、行う。

「どうして?」

もう一度言う。

「どうして貴方は、私から大事なものを奪うのですか?」

表情が、見えない。

 その場にいた者は、彼女を恐れた。

強気だった翔も、その様子に言葉を失っている。

 彼は初めて気づいたのだ。基本的なことを。

―――人が、人より強い力のものを扱えないと言う事を。

ましてや彼女は人間の知能を持っていて、異能な力を持っている。
 人の技術で、抑えられるものではない。
使い方を間違えれば、国一つを、いや、大陸。
 最悪の場合、地球すら危ないのだ。

「私は・・・」

クーが顔を上げる。

彼女の瞳には、憎しみと悲しさがこもっていて、その瞳から涙が流れていた。

 ののですら、隼人ですら見たことがない、彼女の泣き顔。

止める事なんか出来なかった。 

その事実に、足が動かなかった。

「私は、貴方を許さない!!」

彼女の髪が、瞳が、黒から灰色に戻る。

それにそこに居る者が呆気にとられている中で、彼女の周りにさっきよりもたくさんの花が、舞う。

  そして、光が周りを包み込んだ。


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