夢幻の姫君
振り返ると声の通り綺麗な女の人と、真琴がいた。

「古西さん。いえ、久々に前から入ったらこんな事になっただけで。お騒がせしました」

怜斗が流れるような動作で言葉から頭を下げる事を行う。
 綺麗だな~と感心していると。

「騒がしくなるのはあなたのせいじゃないわ。社員のけじめがなっていないだけよ」

私はこの〝古西さん〟に好印象をうけた。
 女性の鏡!! こういう人がいないと駄目だよね!!

「何故前から? あら、お客様?」

今の質問に疑問をおぼえた。
 今、気づきました、って感じで言いました?

「あぁ、桐生の娘で俺たち兄弟の大切な人」

大切な人って……広いなぁ意味。社長じゃ信じられないから、幼馴染で良いのに。

 古西さんの目が細められた。え? マジ?
前言撤回ぃぃぃぃ。この人も私情はさんでるーーーー。

「桐生特室(とくしつ)部長の? へぇ……どうして大切な人?」

「貴女に言う義理はありませんよ。プライベートですから」

不躾な質問に黙っていた真琴が答えた。
 不快感を抱いたようで、表情は険しい。怜斗も隼人も思ったようで、黙っていた。
隼人は眉間に皺が寄っていたけれど。

 隼人の経験が足りないなぁとしみじみ思いながら、さてどうしたもんかと考えてると前方のエレベーターより救いの手がやってきた。

「おや? 報告があったのに遅いと思ったら、こんな所にいたんですか?」

スーツを身にまとった30代にも見えなくはない、40代と確実に間違えられるであろう今年51歳となる、男性がやってきた。
 つまり健人なんだが……若さが抜けた健人は、ダンディなおじ様になっていた。

病院で見たはずなのに、美羅には違う人に見えた。
 それは…………スーツのせいだと思うことにした。

< 176 / 210 >

この作品をシェア

pagetop