夢幻の姫君
「はい。……こちらに通してください」

電話に出た健人はそう言って切った。

「来たようですよ。……相変わらずタイミングの良い男ですね」

そんなぼやきが聞こえたあと、コンコンッとドアが叩かれた。

「失礼します。ご用件は何でしょうか? って……美羅」

「やっ、お父さん。朝ぶり!」

私を見たお父さんは少しガクッとした。涙に似て……ってどういう事? ドコが?

「持ってきましたか?」

「あ、はい。霧岬(きりさき)グループの資料ですね」

霧岬グループ? あの大手外資企業の? ……まさか。
 健人を見ると当たりとでも言うように首を縦に振った。
翔はこんな大きなところをバックにつけてたのか……。どうやったんだろういったい。

それと、お父さんがカギを持っているとどうつながるの?

「我が社は貴女がいなくなってからコーポレーション、株式会社になりました」

え、それが? 株式会社になると発展しやすいけど買収される可能性……。
 うん?何か買収されたとか?

「霧岬の子会社がある小さな会社を買収しました。利益になるとは思えないものを」

全然話がみえない。どういう事? 皆わかってないみたいだし、お父さんだって……アレ?
 お父さんは下を向いて考えている。難しい顔をしながら。

「経営者は松嶋響(まつしま きょう)。妻と子供がいましたが離婚していて、現在行方がつかめていません。カギはこの男です」

たしかに、松嶋響といえば経営者ではやり手と聞いたけど……って〝行方不明〟じゃ意味無いし。
 そんな視線に気づいたのか健人はニッコリ笑う。

「松嶋響は桐生奏聖の弟ですよ」

え? って名字ちが……

「親が離婚して、響は母さんに引き取られたから。なるほど。だから私を呼んだんですね? 連絡を取っていることを知っていて」

なるほど……。私はお祖父ちゃん達を知らなかったから、いとこも知らないんだ。
 と言うより、知ってたんだ、健人。意地悪な奴だな。

 でもコレだけじゃ、迷う理由にはならない。
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